作家インタビュー

「アンチテーゼ」を根幹とし作品へ昇華する/H4N53N

絵画や音楽、様々な表現活動をSNSで発信するオルタナティブアーティスト、H4N53N(ハンセン)。
絵画作品では主に抽象表現をベースにコラージュ要素を取り入れた激しい筆跡で表現する。

そんな彼が表現というものを追求するようになったきっかけ、表現の根幹にまつわるお話を伺った。

耳だけでなく視覚でも感じる、もう一つのアウトプット手段としての絵画。

ー H4N53Nさんがアーティスト活動を始めた理由を教えていただけますか?

元々音楽活動を行っていましたが、思い描くような結果が得られませんでした。そのためアプローチの方法を変えてみようと考えるようになり、そこで当時の私が思いついた方法が絵でした。

音楽は主に聴覚に訴えかける表現方法ですが、そこに視覚的アプローチを加えれば、私が作った音楽を聴きやすくなっていただけるのではないかと考え、描き始めました。

ー 表現手段の一つとして、絵を描くという行為があるという感じですね。 音楽がベースとの事ですが、元々の「表現」に目覚めたきっかけはありますか?

音楽を表現したいキッカケになりますが、幼少期に褒められる事がありませんでした。出来て当たり前という考え方で、テストの点が悪いと泣いても怒られる、そんな家庭でした。

そんな幼少期でしたが、確か小学4年生の時に、音楽の先生に合唱コンクールのメンバーに誘われ、音楽の授業で私の歌を聞き「歌が上手いから出てほしい!」と言われました。しかし、その当時、塾に行かなければならなく断ったのですが、その次の年も「今年こそは出てほしい!」と言われ、それが成功体験となりました。

そして、1年越しにわざわざ言っていただくことなどなかなか無いと考え、「自分は表現する人間なんだ」と思い、音楽家を目指すキッカケとなりました。

ー 勉強で良い成績をとるよりも、表現に向いていると思ったきっかけが歌だったんですね。

そこから本格的に音楽活動を始めたのは18歳からです。比較的遅い方だと思います。

そもそも出身が愛媛県の田舎出身で、楽器屋もなければ、コンビニも無いような村で育ちました。高校を卒業して、愛媛県を出てから音楽の専門学校に入りました。

ー 絵を描き始めたのはどのくらいの時期ですか?

恐らく24・25歳くらいだったかと思います。

音楽活動も色々試行錯誤しながら行なっていましたが、思うような結果が得られませんでした。

自分自身のアプローチも上手い方ではありませんでしたが、これ以上の表現を考えた時に、耳だけでなく目でも感じる、もう一つのアウトプットの手段として、新しいアプローチを行いたいと考えました。

そしてそんな時に絵を描くきっかけとなったのは、昔やっていた「笑っていいとも!」というTV番組を見てからです。

絵を描き始めた当初に制作されたボールペン画

ー 「笑っていいとも!」懐かしいですね。

そこにキングコングがレギュラーで出演していたのですが、今でこそクリエイターとして有名な西野亮廣さんが、タモリさんに言われて全部ボールペンで描いた絵本を宣伝していて、衝撃を受けました。

「絵ってボールペンで描いていいんだ。」と、ボールペンであれば初期投資は安いし、まず描いてみようと考えました。

そして西野さんは絵本を0.3mmのボールペンで描いたと聞いたので、対抗意識で、家の近所のファミリーマートで売っていた、無印良品の0.25mmボールペンを買って書き始めました。

大前提として最初から上手く描けるなど思っていません。なので上手くいかないのであれば、場数を踏めばいいだけの事で、これは音楽を始めた時も念頭に置いている事です。そして誰に何を言われたとしても、その人に私の人生の責任は取れないので、「やりたいからやる」を貫いています。

文字の持つ力が強いのであれば、あえて使ってみようと考えました。

ー 絵を描き始めてから、何か変化はありましたか?

あるとき知り合いから、「絵のコンテストがあるから、出せば?」と言われました。ボールペンだけで描いていることに自信はありましたが、初見で見る側としては分かりにくいと思い、絵の具を交えて作品を描きました。

結果、入賞には至りませんでしたが、この時をきっかけに、絵の具を用いた作品を描くようになりました。

その後、SNSに作品を不定期に上げていたところ、それを見ていた別の知り合いから、絵の作成を依頼されました。それがきっかけで絵を売ることができ、今も続けています。

ー 作品の中ではクレヨンやメモ用紙とかも貼り付けたりしてますよね。どこかコラージュ的な要素があると思います。 画材に縛られずにいろんな材料が使われていますが、ああいうのはどのような意図で乗せているのですか?

あるコラージュアーティストのInstagramのライブ配信を拝見していたところ、「コラージュに使う写真や雑誌の切り抜きは、著作権の切れたものしか使えない。」そうお話されていました。

コラージュアートに興味はありましたが、著作権の有無を調べてまで行いたいとは思いませんでした。

そこで、なにも描かれてない折り紙やメモ、自身のTwitterでの過去のつぶやきを切り取って作品に用いて、私なりの解釈のコラージュアートを行ってます。

ー H4N53Nさんの作品内には文字のようなものも書かれてますが、そこからの発想なんですね。

絵の中に文字を書くようになったのは、一つの作品がきっかけとなっています。

ー LOVEっていっぱい書いてある!

この作品を描くまで、作品の中に文字を描いたことはありませんでしたが、初めて絵を購入いただいた方に見ていただいたところ、「あまり好きではない。“文字”の印象が強い。」と感想をいただきました。

ー あら、あまり良い反応では無かったんですね。

しかし、それがきっかけで文字の持つ力が強いのであれば、あえて使ってみようと考えました。

昔、古着でメッセージTシャツによく分からない英語が書かれているものが売られていましたが、その意味を調べると、実は笑えるようなものであったり、卑猥な言葉であったり書かれていました。しかし大多数の人は、その書かれてある意味を調べず購入に至っています。

私の解釈では、欧米諸国に対するコンプレックスからくる憧れがあるからこそ、意味は二の次で、デザインだけで選んでいると考えました。

その仮説もあり、私が描く作品には文字をあえて入れていますが、実は文字に意味はありません。

ー 一見、何か深い意味があるのではと思っていました。

作品の根幹のテーマが「アンチテーゼ」なので、人をバカにしています。

「これを描いていれば格好良いと思うんだろう?」「こういうのが好きなんだろう?」というような皮肉を可視化しています。

なので文字の意味など「興味がない」と思っていますが、適当に書くのではなく、書道の楷書や草書のように、字もアートと捉え、バランスを考えながら配置し、「魅せる」事を意識しています。

「常に今以上を出したい」それがアンチテーゼに繋がっていると思います。

ー 1枚の画には何か意図的なものが込められているようにも見えます。 しかしH4N53Nさんは作品の解説等もあえて無く、ご自由に解釈してくださいというスタンスですよね?

作品自体、「誰も興味がない」を前提に描いています。

絵を購入に至る人を考えると、大前提として、ある程度お金に余裕があり、アートに興味があるだけでなく、本を読んだり、映画を観たり、想像力がある人達です。

私の絵は気軽に手に取って欲しいという願いもあり、大体A4サイズで描いていますので、大概どんな収入の家でも置ける大きさです。

しかし絵の購入対象者は、アートに対してリテラシーが高い人を想定しています。

ー確かにH4N53Nさんの描く絵は、ある程度の想像力が必要とされますよね。

話のレベルを合わせないといけなかったり、気に入らない素振りをされたり、それに対しそのまま言葉で伝えた場合揉め事になってしまいます。 なので作品に言葉を書いているのも、一つのアンチテーゼの表現というのはあります。 ただ「どうせ見てないだろ、読めないだろ」が大前提としてあるので、読める文や解説も書きません。

ー H4N53Nさんの中でアンチテーゼの原動力は、どこからやってくるのですか?

対、人であったり、集団であったりもそうですけど、 個の集まりが集団になって、集団の集まりが村であったり、町であったり、区になったり、ひいては世界になったりすると思うんですが、自分自身も、傍から見たら「個」の一部で、自分を他人として考え、自分自身を否定する。だけど、肯定しているというものがあります。

否定しつつも肯定したい、わかりやすく言うと「向上心」です。

現状は、明確な結果や成果というのが見えていませんし出来ていないのですが。であれば、これは間違ってると思うようにしています。

だからこそアンチテーゼとして批判をしながら、次のステージに行きたいという。全ては向上心です。

多分、私のことをポジティブな人間にはあまり見えていばいと思いますが、基本的にはポジティブに生きてる人間だと思っています。

常に、今以上の物を出したいっていうのが、それがアンチテーゼに繋がっていると思っています。

ー 少し意外な気がします。社会や他人に対するものではなく、実は自分自身へのアンチという。 ちなみに、制作する時にスランプ等あったりはしないのですか?

あったのかもしれませんが、あまり覚えていません。

ー Inatagramのストーリーでは毎日何かしらギターの演奏やスケッチブックに書いてる絵がUPされてますよね。毎日それが継続できるのがすごいなと。

やってみたら出来たという感じです。絵の方は自分の中の型みたいなのものが、定まっていますので、それを崩しながら、ちょこちょこマイナーチェンジしてるだけなので、そんなに苦ではなく続けています。

音楽に至っても毎回違うフレーズを弾き、作品と捉えて頂けるのは嬉しいのですが、あれは練習兼、もっと上手くなるための一つのアウトプットとしての投稿です。

ー ワークアウト系の動画もよくUPされていますが、以前、ダンスにも挑戦したいと言ってましたよね?

踊りをやってみたいとも思っていましたが、今は合気道をやりたいって思ってますね。

格闘技=相手に力を加えると思われがちですが、このインタビューのお話もですが、人を敵に回しそうな事も、主張として言ってしまうところがあるので、今後活動して規模が今よりも大きくなればアンチも絶対増えると思うので、そういうのを受け流す力も身につけられればと思ってます。

それは肉体的にも精神的にもです。

本当の心の豊かさというものを伝えるために、私の作品や音楽が 何かしらのきっかけになってもらえれば。

ー なるほど「受け流す力」。そこも通ずるところがありますね。では、最後の質問です。あなたにとって「表現」とは何ですか?

今、ぱっと出てきたのは「社会貢献」です。

ー お、こちらも少し意外な言葉が出てきた気がします。

去年ぐらいから「自分だけの欲求や、利益を求めても何も満たされない」という事が分かってきました。

大概の人は、お金の方にフォーカスしがちで、お金があったら幸せになれるって思っていると思います。

例えば小さい頃に逆算すると、お小遣いをもらっておやつ買ったとき「もっとお金があればもっと買える」と思って幼少期を過ごした経験があると思います。 そこから学生時代になりバイトを始め、もっとお金が手に入るようになり、それで物が買えるようになっても、社会人を見て「もっとお金が増えたらもっと買える」と考えます。 そして実際社会人になってみると、役職が上がれば所得が上がる。独立して社長になったり、他の給与の良い企業に移れば所得が上がるり、色んな物が買える。

といった、お金や物に対する執着という連鎖は止まらない。満たされることはない。そしてなくなる事の心配も増える一方だと思いました。

であれば、何を満たせば幸せを感じるのかを改めて考えたところ、「経験は絶対奪われない」という事に行きつきました。

知識を得たりアートに触れたときに感じた事や想像した事は、何にも代え難い経験になります。 ただ、それを自分だけの為に使うことは、生産性がない事だと思いました。

後世の人に、どうすれば心を豊かにできるかを伝えるためにも、私の作品や音楽で何かしらのきっかけになってもらえればと思っています。

それが自分の宿命であり、一番の目標です。そして、それを行える力があるという自覚があります。

その力をどう使うか、自分のためではなく人のために使った方が絶対有意義だと考えるようになり、それが「社会貢献」という事に行き着きました。

表現活動の軸である「アンチテーゼ」。それは自身に対するアンチでありつつも、単なる否定にとどまらずそれをバネにして成長していきたいというポジティブな思想が根幹にあると語るH4N53N。

これまでのエピソードや作風の変遷を聞いていくと、否定的とされるものを独自解釈しあえて自分の作風に取り入れる事でそれらを昇華しているようにも思えます。 文字や言葉には大きな力を持つと語っているとおり、当インタビューにお答えいただく際も、落ち着いた話口調で一つ一つの言葉を丁寧に発している印象でした。

常に新しい表現を模索し進化し続ける様子が垣間見える彼のSNSも、是非ご覧ください。

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