作家インタビュー

一人でも多くのつながりを。空間が華やぐテキスタイルの魅力 / 浅岡知里

色とりどりの花をテーマに、幅広いテキスタイル作品を生み出す浅岡知里さん。
空間に花開く、繊細でどこかノスタルジーにも感じられる色彩が魅力的だ。

全国にファンを持つ彼女が、どんな思いで作品に向き合っているのか。
そのルーツや現在の活動について、詳しく伺った。

― 浅岡さんが作品づくりに興味を持ち始めたのはいつ頃ですか?

 幼少期から絵を描くことが好きで、洋服の形に興味がありました。テキスタイルというジャンルを知るまではファッションデザイナーに憧れていました。ファッション画を描いたり、服の絵を描いた紙を切り抜いてコーディネートを組んだり、描いた絵が実際にモノになったらどうなるのかを想像しながら絵を描いていました。

染織やテキスタイルという分野を選んだ理由はなんですか?

 大学受験で通っていた予備校の近くでテキスタイルブランドの展覧会が開催されていて、そこで見たファブリック(布地・織物)に感銘を受けました。それまで、普段生地屋さんで見ていた反物の生地は洋服や鞄に加工するものという認識でしたが、壁に一枚垂らすだけで、こんなにも空間に作用し、空間を構成できるのかと。

 会場に展示されたファブリックは、インクジェットで印刷されたものではなくて、一色ずつ重ねられた孔版技法のシルクスクリーンプリントだということにも驚きました。機械プリントで正確な色を作ることにも良さはあると思いますが、染料を自身で調合して0.01gのより細かな色彩設計ができることが染の魅力の一つです。手作業で積み重ねたレイヤーからなる混色や色の奥行き、鮮明さがこの技法の面白いところだと思っています。

原画

― 浅岡さんの作品はどうやって作られているのでしょうか?

 基本的には製版時に必要な版の原画は全てアナログで、ペンや筆を走らせて描いています。描いた原画に限りなく近く、それ以上のいいかたちになるように版をデザインすることを第一に考えて制作しています。版の重なりでできた色の微調整は、何度もサンプルをあげて一工程ずつ確実に作業を進めていますが、何よりも楽しくて難しいのは染める工程です。染める作業までにしっかりと計画して一気に染められるように、染める順番やスケジュールは緻密に割り出して書き留めています。

「花」というモチーフを選んだ理由やきっかけはありますか?

 テキスタイル作品を作り始めた頃から「花」をモチーフにしていました。

 初めて制作した織物も染物も花を描いていて、私にとって「花」は「繊維」と同じくらい身近なものだと思っています。祖父母の家では毎シーズンたくさんのお花を育てていました。幼少期から植物を見て触れる機会が多かったこともこのモチーフとの出会いになったと思います。「花」はテキスタイルと同じようにお部屋に一輪飾るだけで空間がより活きたものに、パッと華やかになるという共通点があるから、モチーフとして選んだのかもしれません。

 インスピレーション元は、暮らしの中でのシンプルな気づきをピックアップしたものが多いと思います。あと、シルクスクリーンプリントという技法があっての作品なので、シルクスクリーンで染めて面白い現象や構図、リピートが出来上がるかという点も、ものづくりをする上で重要な判断材料にしています。

他の作家さんや鑑賞者の方がいるからこそ、ものづくりの精度が高まる

これまで作った作品で、特に思い入れのある作品を紹介してください。

 ここ数年の作品群では、平面的なプリント技術を用いた作品を、立体的に展示するインスタレーションの形式を取って、単なる壁面装飾ではない、空間の構成要素としてのテキスタイルの可能性を模索していました。 ですが、細かなプリントを施したテキスタイルを絞ったりオリジナルテクニックで加工したりすることで、色彩面が見えづらくなって本来の良さが出ないという課題感もありました。

 その点をうまくブラッシュアップした作品が、大学院の修了作品で2023年3月に開催した個展のメイン作品である《飛花落葉 2023》です。幅が2.5mくらいある作品ですが、鑑賞者からプリント面がよく見えるような高さを探って、鑑賞者の導線さえも作品の要素として取り入れました。「桜流し」という季語から着想を得てコンセプトを展開し「花を描かず花を愛でる」、直接的に花は描かないものの、作品を見ると花が浮かび上がってくるような、心地いい季節にぴったりな作品です。

― これまでの活動の中で、特に印象的だったエピソードはありますか?

 今年の春に地元の愛媛県で初個展を開催したのですが、当初目標としていた倍以上の来場者数でとても嬉しかったです。地元の方をはじめ6年間活動の拠点としていた広島や定期的にグループ展に参加していた関東、九州からもお越しいただいて、心から感謝しています。他の作家さんや鑑賞者の方がいるからこそ、ものづくりの精度が高まると改めて感じられて、とても温かい気持ちになれた展覧会でした。

 実際に作品を直接ご覧いただける方だけではなく、ホームページやSNSに制作の様子や作品の写真、インスピレーションを受けたものなどを投稿することで、なかなか直接会うことができない方との繋がりも大切にしています。他県のテキスタイルを学んでいる学生さんから「浅岡さんの作品が好きでテキスタイルを学びたいと思いました」とメッセージをいただいたことがあり、今でもとても励みになっています。制作だけに留まらず、続けていくことの重要さにも改めて気づくことができました。展覧会の開催やSNSの投稿という形で、作品を通して一人でも多くの方と繋がることができたら嬉しいです。

ものづくりと手仕事の楽しさが伝わる、そんな作品制作を。

― これからどんなことに取り組んでいきたいですか?

 この春から拠点を地元の愛媛に移しまして、シルクスクリーンプリントで制作する「インスタレーション作品」、トートバッグやポーチといった普段使いできる「プロダクト」の展開という2つの軸を持って制作を行っています。

 今後はDiSCOVARTでアート作品を、自身のオンラインストアではプロダクト等の商品の取扱を開始したいと考えています。加えて企画展や個展、グループ展等で実際に作品を鑑賞していただける機会を定期的に作りたいと思います。カフェやホテル、ショーウィンドウなどの空間装飾にも興味があるので、手のひらサイズのものから身につけるもの、空間を覆うものなど作品の楽しさや面白さとあわせて、スケールの大きなものにもチャレンジしていきたいと思っています。

―最後に、 今のあなたにとって「創作・作品づくり」とは何ですか?

 暮らしの一部です。毎日ご飯をたべるように、手を動かすことが生活サイクルの1項目になっています。そのくらい制作することが楽しいです。

 これからも作品やプロダクトをご覧いただいた方や手に取っていただいた方に、ものづくりと手仕事の楽しさが伝わる、そんな作品制作をしていきたいと思います。

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